東証が2023年3月末付で上場企業にお願いしている「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」が、非常にわかりやすくこれからの経営を考えるうえでヒントとなるので、要旨をかみ砕いて補足しながらまとめてみました。
東証2023年3月31日:資本コストや株価を意識した 経営の実現に向けた対応について
このお願いは、脱炭素経営、人的資本経営、生物多様性など、サステナビリティを意識した経営が、企業価値向上に一助となる理由の本質的な理論となっていると思います。
この記事におすすめの方
- 資本コストを意識した経営とは何かを基礎的なところから知りたい
- 東証のお願いを理解したい
- 企業価値向上の施策について学びたい
東証提言のまとめ:企業価値向上とその施策 資本コスト経営について
企業価値向上のための現状と課題認識
東証は、「プライムの約半数、スタンダート約6割が、ROE8%未満、PBR1倍割れであり、資本収益性に課題がある」という課題認識を持っており、その結果、企業価値の向上につながっていないという分析をしています。
企業価値向上のための施策
中長期的な企業価値向上を実現するためには資本コスト・資本収益性を意識した経営資源の配分が重要というのが結論。
- それはなぜか?
「企業価値」とは、「資本収益性」から「資本コスト」を引いたものが源泉であるため(理論上そういうもの)
- 「資本コスト」とは?
企業に出資している人に対する報酬のこと(配当、キャピタルゲイン、支払利息など)
- 「資本収益性」とは?
企業への出資から生まれる利益全体のこと。この「企業への出資から生まれる利益全体」(資本コストは控除されていない概念)というのは、PLの営業利益や当期純利益とは異なる概念であり、「資本収益性」と呼ぶ
(資本収益性が一般的な呼称であるが個人的には資本コストに対応する概念として資本収益といったほうが馴染むかなー)
前述のとおり、「企業価値」とは、「資本収益性」から「資本コスト」を引いたものが源泉であるため、単にPLの売上や利益水準を意識するのではなく、「企業への出資」である資本金や借入金=広義の資本=バランスシートを意識した経営が必要となる
- 具体的には?
「資本コスト」とは、WACCや株主資本コストで算定される
「資本収益」とはROICやROEで測られる
資本コストを上回る収益=資本収益―資本コスト
EX:
- ROIC-WACC
- ROE-株主資本コスト
- 東証の提言
経営層が、「資本コスト」と「資本収益」を意識したうえで、研究開発投資・人的資本投資、設備投資、事業ポートフォリオの見直しの取り組みを推進し、経営資源の適切な配分を実現することを期待している
- 短期目線と長期目線
短期的には、自社株買いや増配により東証の提言は達成されるが、東証は、中長期的な解決策を期待している
- How?
現状把握、②計画策定・開示、③取り組みの実行、のサイクルを回すことが書かれている
まとめ
東証の提言する資本コストや株価を意識した経営がなぜサステナビリティ経営につながるかというと、脱炭素投資や人的資本投資も、企業の活動として行うのであれば、企業価値向上による出資者への還元、が目的となるからです。
なので、企業価値向上のための投資を計画、評価、計測、改善のPDCAとして回すために、従来のPLを重視した経営ではなく、BSを意識した経営が必要となり、それが、地球のためにも必要となってきます。
つまり、単に営業利益を計上しているからOKではなく、PLには反映されていない資本コストを考えていく必要があるのが今後のサステナビリティ経営ということとなります。
この資本コストや資本収益の考え方についてはこちらの書籍がわかりやすいですので、より深く理解されたい方はご一読ください!