僕たちが今日直面している経済と環境の課題は二重の性格を持っています。
- 企業は自身の価値を向上させ、投資家にとって魅力的な選択肢であり続ける必要があります。これは資本の効率的な利用を通じて可能であり、その中でも特に投資資本利益率(Return on Invested Capital、ROIC)は重要な指標となります。
- 他方で、私たちは気候変動とその他の環境問題を解決する必要があります。このためには、企業が脱炭素投資を行うことが不可欠です。
ROIC経営と脱炭素投資は表面的には対立するかのように思えますが、実際には二つの目標は共存し、互いに補完し合うことができます。
そこで、本記事では、この二つの要素をどのように組み合わせることで、資本効率を意識した企業価値向上を達成し、同時に持続可能な未来に貢献できるのかの最も基本的なところをわかりやすくまとめています!
この記事は以下のような方におすすめです。特に、初めてこのトピックに触れる方に有用かと思います!
- これから経営について学ぶ方
- ROICとは何かを企業価値向上の観点から学びたい方
- 脱炭素投資がなぜ今求められているかを学びたい方
- 脱炭素投資と企業価値向上の関連性を学びたい方
- 脱炭素投資の事例を学びたい方
私たちが次に進む前に、ROICと脱炭素投資、それぞれが何を意味するのかについて少し掘り下げてみましょう。
ROIC経営と脱炭素投資の必要性
ROIC経営の概要
ROIC、または投資資本利益率は、企業が所有する全ての資本(株主資本と負債)をどれだけ効率的に使用して利益を生み出しているかを示す指標です。企業の投資効率を計算するための一般的な式は次のようになります:
ROIC = NOPAT (Net Operating Profit After Taxes) / Invested Capital
この式は、企業がどれだけの投資資本を使用して、税引き後の運用利益(NOPAT)を生み出すことができるかを示します。
ROICが高いほど、企業は投資された資本を利益に効率的に変換していると言えます。
ROIC経営は、これらの指標を重視し、運用利益の最大化と投資資本の最小化を目指す経営スタイルを指します。
具体的な戦略としては、収益性の高い事業への投資拡大、非効率的な資本の削減などが考えられます。
メモ
典型的な日本企業の課題は以下といわれています。
- 売上高、営業利益、などPL項目のみ重視した経営をしており、BSを意識していない
- その結果、資本効率性が悪い
- それが投資家から評価されない理由で、企業価値が向上しない
この流れを変えて、企業価値向上を目指すのが資本効率を意識した経営戦略となります。
BSを意識しない結果生じた日本企業の典型的改善策は以下の2点です。
- 余剰資金の有効活用
- 政策保有目的株式の売却
日本の国民性もあってか、余剰資金を多く持っていると評価されているとのレポートがあります。
また、過去の経緯もあり、政策保有目的株式を多額に保有している、という課題もあります。
これらの資産を本業に回す・株主還元をするだけでも、短期的な資本政策となるといえます。
脱炭素投資の概要
次に、脱炭素投資について説明します。
脱炭素投資とは、企業が炭素排出を削減または排除するためのプロジェクトや技術に投資することを指します。これは環境に配慮した経営の一部であり、企業の社会的責任(CSR)の一環とも言えます。
具体的には、再生可能エネルギーの導入、省エネルギー型の設備投資、CO2吸収に効果的な植林プロジェクトへの投資などが脱炭素投資の例として挙げられます。
ROIC経営と脱炭素投資の組み合わせ
一見するとROIC経営と脱炭素投資は対立する要素のように思えるかもしれません。
しかし、これらは適切な戦略と視点を持つことで、一緒に取り組むことが可能です。
短期的には脱炭素投資によるコスト増がROICを下げる可能性がありますが、長期的な視野に立つと、環境規制の強化や、投資家や消費者の環境意識の高まりを考慮すると、脱炭素投資は企業価値の向上に貢献します。
そのため、企業は資本効率と環境問題への対応を同時に考慮し、両者のバランスを見つける必要があります。
それが、持続可能な未来を追求しながらも企業価値を高める「ROIC経営と脱炭素投資の組み合わせ」です。
メモ
脱炭素投資を含むサステナビリティ投資はこちらの3つの投資区分に分けられるという考え方があります。
- リターンは低いが、企業の脱炭素を加速させるための投資
- 長期的な視野でのみ収益が見込まれる投資
- リスク対応・軽減のための投資
この3つの区分からいえることは、短期的には効果の濃淡はあるものの、長期的な視点でのリターン、長期的な視点でのリスク低減、がサステナビリティ投資の根幹にあるといえます。
なので、経営者、事業部門責任者の方は、在任期間のみならず、企業の行く先を見据えた経営判断を行っていくことがより求められる、ということとなります。
参考:ROIC経営におけるサステナビリティ投資の評価方法 - KPMGジャパン
実例紹介
ここではROIC経営と脱炭素投資をうまく組み合わせた具体的な企業の事例を紹介します。それらの企業が取った具体的なアクションとその結果を見てみましょう。
テスラの事例
テスラは電気自動車と再生可能エネルギーに大きく投資し、その結果、長期的な視点で見ると企業価値を大きく高めることができました。
テスラは初期の高投資にも関わらず、その革新的な電気自動車とエネルギー貯蔵技術の開発により、持続可能なエネルギーの普及を推進しつつ大きな企業価値を創出しました。
テスラの成功は、投資家に対して環境に配慮した経営が長期的な価値創出につながることを示しています。
一方で、多くの製造業では、生産プロセスの効率化と炭素排出削減を目指すための取り組みが行われています。例えば、資源やエネルギーの効率的な利用により、製造コストを抑えつつ環境負荷を軽減することが可能となります。
テスラについてはこちらの記事もご参考ください。
結論: これからの企業のあり方
現代の企業は、経済的な利益だけでなく、社会的な価値も創出することが求められています。そしてそのためには、ROIC経営と脱炭素投資を組み合わせ、資本の効率的な利用と環境問題への対応を両立させることが必要です。
本記事を通じて、この新たな経営のあり方が、企業価値向上と地球環境の保護の両立にどう貢献できるかを理解していただければと思います。
こちらの本は、ROIC経営について基礎から非常にわかりやすく解説されているのでおすすめです!
参考文献:
- "The Relationship between Return on Investment Capital and Sustainable Growth", Smith, J., & Anderson, M. (2018). Journal of Business Finance.
- "Investing in the Future: The Role of Carbon-Free Investments in Corporate Strategy", Thompson, A., & Jones, G. (2020). Journal of Environmental Management.
- "Tesla's Growth Strategy: How Sustainable is It?", Lee, H., & Kim, S. (2021). Journal of Business Strategy.