ESG投資の中でも、特に、今後、主流となっていくといわれているのがESGインテグレーションと呼ばれる投資手法です。
まだまだ、なじみが薄い手法となっており、
「ESGインテグレーションとは何か?」
「ESGインテグレーションって具体的にどういうことをするの?」
という疑問を抱く方も多いと思います。
僕は、公認会計士として活動し、会計に関するプロフェッショナルですが、本記事では、SASB(Sustainability Accounting Standards Board)が規定している手法から、ESGインテグレーションを解説していこうと思います。
ESGインテグレーションの手法について4つの財務指標から具体的に解説
ESGインテグレーションとは
ESGインテグレーションとは、ESG投資の中では、最も収益性を重視する投資手法で、ESGに関する開示されている情報を利用し、既存の財務情報を補正・修正し、投資先を決定するものです。
既存の利益や資産の情報を、ESGに関する情報で補正・修正する、という点において、インテグレーション(統合)という名前がついています。
つまり、ESGに関する評価が高いことによって、企業価値がより高い、もしくは、将来高くなるであろう投資先を選ぶものです。
例えば、ESGインデックスといったインデックス投資もESGインテグレーションのカテゴリーに入るとされています。
ESG投資の全体像については、こちらの記事をご参考ください。
【まとめ】ESG投資とは?メリットやデメリットについて簡単に解説
4つの財務指標からESGインテグレーションの手法を解説
ESGインテグレーションは、伝統的な財務情報をESGに関する非財務情報を関連させ、投資先を分析する、という手法です。
なので、「財務情報の修正」というプロセスがあります。
では、「財務情報」とはなにか?ということが生じます。
財務情報は、損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)をイメージしてもらえればと思いますが、ESGインテグレーションでは、「収益」「コスト」「資産と負債」「資本コスト」の4つの財務指標を補正していくことになります。
すべてにおいて、画一的な補正はなく、そのときどきの実態に応じ、また、複数のシナリオケースをもって、財務情報を補正し、ESGインテグレーションにより投資を検討することが重要となります。
「収益」
収益を非財務情報を利用し、補正する手法があります。
具体的には、DCF法によって企業価値を算定している場合、将来の収益予測を、非財務情報の観点から将来キャッシュフローを補正し、DCF法を適用する、といったことがあげられます。
一例は以下です。
①将来収益予測
補正される財務指標:
製品やサービスについての将来の需要
補正する観点:
法令で要求される製品特徴を質・量から補正
財務分析の手法:
DCF法における将来収益予測
例:
自動車産業において、将来の法令で要求される自動運転の安全性をクリアできるか否か、という点を、将来収益予測に取り入れ補正し、DCF法を適用する。
②ブランド価値
補正される財務指標:
例えばブランド価値などの無形資産評価における長期成長率
補正する観点:
ブランド価値を上げる、または、下げる要因を質・量の観点から特定
財務分析の手法:
DCF法や超過収益法における長期成長率やターミナルバリュー
例:
製薬産業において、法令を守れていない薬品(例えば、法令改定のキャッチアップができていないなど)の販売をするリスク
「コスト」
将来のコスト予測を補正するものです。
将来環境に関する規制が強化され、企業により負担が生じる可能性があります。
現在、対応できていない企業にとっては不利に働きますし、既に将来を見越して動いている企業にとっては、相対的に有利に働くといった分析が数値をもって可能となります。
補正される財務指標:
コスト構造
補正する観点:
法令順守のための将来コスト
財務分析の手法:
DCF法におけるコスト予測
例:
製造業において、炭素排出量の規制に対応するための、設備投資予測の補正。
「資産と負債」
資産と負債の評価を、補正するというものですが、上記のコストと似ているところもあります。
補正される財務指標:
コアとなる負債の評価
補正する観点:
法令順守のための将来コスト
財務分析の手法:
将来キャッシュフローを割引現在価値にし、負債を測定
例:
石油産業における将来の環境規制対応のための将来キャッシュアウト情報を補正し、負債の価値を測定する
「資本コスト」
資本コストの補正は、上記のDCF法における割引率の補正のイメージです。
特に、量的観点から数値化しずらいESG要素、例えば、企業の倫理観であったり、ガバナンス対応など、について、特定のキャッシュに関連させずに、企業価値評価に反映する方法です。
例えば、リスクプレミアムとして上乗せするなどです。
「収益」「コスト」「資産と負債」に直接反映可能なものは、それぞれの評価において反映させ、量的特定が難しい、定性的な項目は、「資本コスト」を補正する、というイメージです。
まとめ
ESGインテグレーションについてイメージがわきましたでしょうか。
現在、財務情報だけでは、企業価値を表し切れておらず、いわゆる無形資産の価値が企業価値の大部分を占めている時代において、今後、ESGインテグレーションは当たり前の時代となる可能性があります。
投資家という観点からは、投資のリスクとリターンの適切な把握のため、企業の観点からは、今後、どういった企業が企業価値を伸ばしていくのか、というリスクとチャンスの把握にもなる企業価値評価手法かと思います。