まだまだ認知度が低いFSA Credential というサステイナビリティに関する資格について、特に、本記事では、FSA Credential のLEVEL1について、何を勉強する資格か、に絞って詳しく解説しようと思います。
おそらく、ここまで、具体的な勉強内容に踏み込んでいるのは、日本ではこの記事だけかと思いますので、FSA Credentialに興味がある方は必読です!
その前に、どのような資格か、という一番大きな概要を改めて確認したい方は、以下の記事を参考にしてください。
【解説】FSA Credentialとは? 勉強方法や勉強時間は?
FSA Credential で勉強できる3つのこと。日本で唯一の詳細解説
僕は、現役の公認会計士であり、会計分野の仕事でのニューヨーク駐在を経験している会計プロフェッショナルなのですが、サステイナビリティ会計の資格ともいえるFSA Credentialについて深堀していこと思います。
SASBという機関が作成しているサステイナビリティ会計基準について、以下の観点を勉強するものです。
- サステナビリティの情報提供の必要性が生じた背景
- サステナビリティ報告基準の体系理解
- サステナビリティ報告基準の使い方 -投資家の目線と企業の目線ー
1.サステイナビリティの情報提供の必要性が生じた背景
以下が特に重要な点です。
一言でいうと、現在の財務諸表(B/S、P/L)では、企業価値を適切に表すことができていない、という問題が生じていることを補うため、サステイナビリティの情報提供が必要となっています。
というのも、財務諸表で表される純資産価値と、企業価値の間の差が、どんどん大きくなっている時代となっています。GAFAしかり、有形資産ではなく、B/Sに計上されない、無形資産の価値が大きくなってきていることが、問題の所在となっています。
ある研究レポートによれば、1975年には、企業価値のうち、有形資産の割合が83%、財務諸表に計上されていない無形資産の割合は、17%であったのに対し、2020年は、有形資産が10%、無形資産が90%になっているという報告がなされています(*1)。
そうすると、投資家の観点からは、財務諸表に計上されていない情報から、投資判断をする必要が生じてきます。
そして、その差を埋めるものが、サステイナビリティに関する情報、ということとなります。
例えば、TESLAという自動車メーカーは、みなさんご存じかと思います。自動車販売台数が右肩あがりであることはありますが、トヨタと比べると世界販売台数は、トヨタのほうが格段に大きいです。
しかし、企業価値は、TESLAがトヨタを抜いて大きくなっています。財務諸表の純資産価値も、当然トヨタのほうが大きいです。
これは、まさに、TESLAが、電気自動車というサステイナビリティ付加価値の高い製品でブランドを確立し、今後、伸びるであろうという投資家の期待の表れであり、まさに、サステイナビリティ経営の結果、企業価値が向上しているといえます。
このように、今後、投資家が投資判断するにあたり、サステイナビリティに関する情報の有用性が高まっている、という背景があるのです。
このようなことを中心として、サステイナビリティの情報提供の必要性が生じた背景を勉強することとなります。
2.サステイナビリティ報告基準の体系理解
サステナビリティの情報提供の必要性が生じた結果、生じた課題が以下です。
FSA Credentialでは、以下の詳細を学びます。
- サステナビリティの情報とはなにか?=報告基準の必要性
- サステナビリティ報告基準は、どうやって作成されたか?
- サステナビリティ報告基準は、どのような体系か?
サステイナビリティの情報とはなにか?=報告基準の必要性
サステイナビリティの情報提供の必要性が生じましたが、では、必要な情報は何なのか?ということが次の課題として生じました。
必要な情報を、漏れなく、比較可能にする、枠組みとして、サステイナビリティ報告基準(SASB Standards)が生まれることとなります。
サステイナビリティ報告基準は、どうやって作成されたか?
でも、サステイナビリティ報告基準が、漏れがあり、比較可能でないのであれば、報告基準として意味はなくなり、情報の有用性は担保されません。
そこで、SASBは、サステイナビリティ報告基準作成にあたり、主要な目的、と、目的達成のためのアプローチを定めました。
詳細は、割愛しますが、以下となります。
<主要な目的>
- Financially Material
- Descision useful
- Cost effective
<アプローチ>
- Evidence based
- Market informed
- Industry specific
- Transparent
サステイナビリティ報告基準は、どのような体系なのか
上記目的達成のために、報告基準は作られますが、特に特徴的なのが、Industry specificという点で、重要なものとなります。
サステイナビリティは、ガバナンスなどの、Industry固有のものではない、共通のものと、環境への影響や関連法律など、Industry固有のものがあるため、Industry specificが非常に重要視されています。
具体的には、77のIndustryを定めています。
そして、具体的な報告基準の中に、重要な2つの概念があります。
- Disclosure Topics
- Metrics
Disclosure Topicsとは、その名の通り、開示に関するトピック、テーマのようなものです。
Metricsとは、その開示トピックを達成するための、具体的な測定方法となります。
この辺りが、テキストの中で深堀されていきます。
3.サステイナビリティ報告基準の使い方(投資家の観点、企業の観点)
報告基準の体系が理解できたことを前提に、どうやって、その報告基準が使われるのか、ということを、投資家の観点と、企業の観点と、2つの見方から学びます。
投資家の観点
投資家の観点からは、まさに、サステイナビリティの情報提供の必要性のところで述べた、財務諸表と企業価値の差、を埋める情報、として使用されることになります。
具体的には、現在の財務諸表ベースで計算される企業価値計算に、サステイナビリティに関する情報を入れ込むことで、サステイナビリティに関する情報を反映した企業価値計算が可能となり、投資の判断の一助となります。
例えば、DCF法で、企業価値を計算しているとしたときに、将来の売上情報は重要な点です。将来の売上予測を立てる際に、サステイナビリティに関する情報を入れ込む、例えば、自動車メーカーで、2035年から新車はEVのみ、という過程があり、では、2035年まで、あるいはその先のEVへの置き換え予測、という情報を埋め込むことなどです。
あるいは、コストの面からは、ある環境分野の法令順守のための、コストがどの程度予測されるか、などです。
このように、財務諸表ベースの価値に、修正を加える情報として、サステイナビリティ報告基準、およびその情報を投資家は利用することとなります。
企業の観点
企業の観点からは、投資家から評価を得て、資金を獲得するための、コミュニケーション手段として、使われることとなります。
また、経営判断のための情報として使われます。
前述の通り、投資家からサステイナビリティに関する情報開示ニーズが高まっているわけで、そのニーズをつかむことが、投資家からの信頼を得ることとなります。
では、どのように、投資家ニーズを考えるか、というと、サステイナビリティ報告基準を参考とするわけです。
サステイナビリティ報告基準は、Market informedなものであるので、投資家の需要が詰まっています。
その需要を適切につかむために、サステイナビリティ報告基準を利用し、必要な情報を開示することとなります。
必要な情報が決まった後は、必要な情報を収集する内部統制の構築や、開示する情報の信頼性の担保のための、外部監査の依頼、など、具体的なやるべきことが定まっていきます。
特に公認会計士の方は、興味があるかもしれません、FSA Credentialでは、外部監査の観点からも、解説がされています。
また、投資家への情報提供のためだけではなく、サステイナビリティに関する情報を経営に役立てることもできるわけです。
投資家が欲しい情報、というのは、企業価値の観点からであり、経営者としては、企業価値を最大化するために、そのような情報を利用し、事業計画を考えることができます。
どのような情報が、企業価値の観点から有用か、ということをまとめたのがサステイナビリティ報告基準とも言えるので、その基準を利用することはとても有用なのかと思います。
まとめ
以上、FSA Credential LEVEL1の学習内容の一番肝となる部分の詳細を解説しました!
興味を持たれた方は、FSA Credentialの公式ホームページから申し込んでください。
リンクを載せておきます。
また、既に申し込み済みの方は、具体的な勉強方法も解説しているので、ご参考ください!!
徹底解説:FSA Credentialの具体的な勉強方法・勉強時間
おそらく、読者の方には、公認会計士の方もいると思いますが、会計のその先、を考えるきっかけとなり、少しでも多くの方が、サステナビリティに関して興味を持ってもらえればと思います!
*Ocean Tomo, Annual Study of Intangible Asset Market Value, 2020